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ZEPHYR-Wright

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【  2019年02月  】 更新履歴 

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  02.19.  【 キロンの物語 桜餅 】  桜餅part.4 (キロンの物語1)   さわりを読む▼
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桜餅part.3 (キロンの物語1)

キロンの物語 桜餅

  ――すべて知っています。 頭が真っ白になった。 わたしはたぶん、かなり長い間、その一枚の便せんの文字を見つめ、その場に凝固していた。そして、隣の離婚届に記入されている夫の署名と捺印を交互に見つめていた。「すべて知っています」という言葉の意味が、ちゃんと頭に入ってくるまでに、とても長い時間を要したように感じた。 理解することを、たぶん拒否していたのだと思う。  娘。 あるとき、頭の中でつながり、わた...全文を読む


桜餅part.4 (キロンの物語1)

キロンの物語 桜餅

  弁護士に指定された面談会場で、ようやく夫に再会することができた。 すぐに土下座した。一緒に来た両親も。 決壊したように涙があふれ、みるみる床に水たまりを作った。 わたしは自分が何をしゃべっているのかも、よくわからないほどだった。懺悔の言葉と許しを請う言葉を、えんえんと繰り返し吐いた。叫ぶように。 どうか捨てないでほしい。なんでもする。一生かけて償います。 しかし、夫は「お義父さん、お義母さんが謝...全文を読む


桜餅part.5 (キロンの物語1)

キロンの物語 桜餅

  面会日の二日前。 あの日がやってきた。 3.11―― 派遣で勤務していた会社のオフィスもパニックになった。余震の続く中、背筋が凍るような情報が次第に入ってきて、帰宅命令が出された。個別の会社の事情などよりも、この国が根底的に覆るような大きな危機感が直感的にあった。 地震発生直後から、わたしは幾度も聡史の携帯電話にかけていたが、まったくつながらなかった。メールを送っていたが、それも届いているのかどうかも...全文を読む


桜餅part.6 (キロンの物語1)

キロンの物語 桜餅

 「ど、どうして……?」「ちょっと前から考えていて、じつは明後日、話そうと思っていたんだ。ほら、1月にポリープの手術したっていったよね。そのときに、いろいろ思ったんだ。ああ、それに……こんなことが起きて、今の亜弥の様子を見て、よけいにね」 涙が勝手に、どんどん頬を伝って落ちるのがわかった。だけど、わたしは馬鹿みたいにずっと聡史の顔を、目を、見つめていた。やがてそれは潤んで見えなくなってしまい、手でこすっ...全文を読む


桜餅part.7 (キロンの物語1)

キロンの物語 桜餅

  そうして、わたしと聡史の再構築が始まった。 まずは少しずつならしていこうということで、最初は週末だけ実家にお泊まりするようにした(これは実質的に震災直後の土日からになった)。 ご両親は寛大にもわたしを温かく迎えてくれ、結婚したての頃と同じように接してくれた。 亜弥と過ごせる時間。 家族で囲む食卓。 わたしが取り戻したくて夢にまで見た光景だ。幾度も幾度も、その当たり前の団らんの中でうれしさのあまり...全文を読む


桜餅part.8 (キロンの物語1)

キロンの物語 桜餅

  一年が過ぎ、わたしは社会復帰した。 生まれた子は男の子だった。聡(さとる)と名付けた。 妊娠と出産と育児の期間、頑張って資格を取った。夫の死後、本当に死に物狂いで努力し、医療事務の資格を取った。そのおかげと、夫の友人であった医師の紹介もあり、派遣ではなく正社員として働ける職場を得た。 亜弥と聡は、夫のご両親が変わらずサポートしてくれ、すごく助かっている。帰る場所も変わらず、夫の実家だ。 ご両親は...全文を読む

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